旅の始まりは「ZONE PRI」と共に
前回お届けした、新しくなった「KIX Lounge KANSAI」での穏やかなひと時。 ANAラウンジが閉鎖された後の関空において、ここが新たな修行僧の聖地になる予感を感じつつ、私は重い腰を上げました。(KIX Lounge KANSAIの記事はこちら)
向かうはサウスウィングの最果て、14番ゲート。 そこで待っていたのは、エコノミークラスの搭乗券に刻まれたこの誇り高い文字です。

「ZONE PRI」
スターアライアンス・ゴールド、そしてANAダイヤモンド・プラチナ(SFCカード含む)ステータスを維持し続ける者だけに許された、優先搭乗の証。 2026年最初の海外修行レグ、その幕開けにふさわしい「特権」を胸に、私は麗しのA330-300(A333)へと乗り込みました。
しかし、この時はまだ夢にも思っていませんでした。 このステータスの輝きをもってしても抗えない、1時間に及ぶ「機内監禁」と、航空ファンとして血の気が引くような「ブレーキトラブル」のアナウンスが待ち受けていることを――。
サウスウィングの最果て「14番ゲート」へ

ラウンジを出て、私が向かったのはサウスウィング。 しかし、搭乗口の番号を見て、思わず「遠いよ……」と独り言が漏れました。
目指すは「14番ゲート」。
関空を利用される方ならお分かりかと思いますが、ここはまさにサウスウィングの最果て。動く歩道を乗り継ぎ、免税店エリアの賑わいが遠ざかっていくのを感じながら、ひたすら歩を進めます。
「これもまた、ダイヤモンドステータスを維持するための足腰の修行か……」
ようやく辿り着いた14番ゲート。 その案内表示の「14」という数字を見た瞬間の達成感は、もはや一つの目的地に到着したかのようでした。
A340の面影を残す麗しの「A333」と対面

14番ゲートの窓の外、朝の澄んだ空気の中に、その優雅な姿はありました。 今回お世話になるのは、アシアナ航空のエアバスA330-300(A333)です。
航空ファンにとって、A330という機体は特別な感情を抱かせる存在ではないでしょうか。 そう、伝説の4発機「A340」の双発姉妹機。あのスリムで伸びやかなプロポーション、そして翼のライン……。A340が空から姿を消しつつある今、その面影を色濃く残すA333の佇まいには、どこかノスタルジックな美しさを感じてしまいます。
機齢11年。 最新鋭のA350やB787のような派手さはないかもしれません。しかし、熟成されたベテラン機ならではの安心感と、時代を超えても色褪せない機能美。 朝の陽射しに照らされたその白い機体は、これから始まる「修行」の一日を祝福してくれているかのようでした。
「今日はこの翼が、私をソウルへ連れて行ってくれるんだ」
そんな期待に胸を膨らませ、私は優先搭乗の列へと並びました。
期待が高まる、2-4-2の機内紹介



優先搭乗で一足早く機内へと足を踏み入れると、そこにはA330シリーズ伝統の「2-4-2」のシート配列が広がっていました。
最新鋭の大型機に多い3-3-3配列に比べ、ペアシートの比率が高いこのレイアウトは、どこかプライベート感があって落ち着きます。

機齢11年。 確かに、モニターのサイズやシートの質感には時代を感じる部分もあります。しかし、手入れの行き届いた機内はそれなりに綺麗で、むしろ熟成されたホテルのような安心感がありました。
「エコノミーでも十分快適。これなら、幸先の良い修行初日になりそうだ」
満席近い乗客を乗せ、機体は定刻通りにプッシュバックを開始。 窓の外、関空の地上スタッフが手を振る姿を見送りながら、私はソウルでのひと時に思いを馳せていました。
――しかし、その直後でした。
タキシングを開始したはずの機体が、誘導路の途中でピタリと動きを止めたのです。
暗転。誘導路で訪れた「沈黙の1時間」
静止した機体。 最初は「離陸待ちの順番かな?」と思っていました。しかし、5分、10分経っても、エンジンが再び唸りを上げる気配はありません。
静まり返った機内に、突然、機長の落ち着いた、しかしどこか緊張感を含んだアナウンスが響きました。
「当機は現在、ブレーキの温度過熱により、冷却のための待機をしております」
ブレーキ温度過熱。 航空ファンなら、その言葉の重みが分かります。離陸に向けた全力の制動を担保するためには、一定の温度まで下がるのを待つしかない。
「……まじか。これ、どれくらいかかるんだ?」
窓の外では、後からプッシュバックしたはずのチェジュ航空が、軽やかに私たちを追い越していきます。しかも、滑走路の端まで行かずに手前の誘導路(インターセクション)から、まるで「お先に!」と言わんばかりのドッカン離陸。
ステータスの誇りを胸に乗り込んだA333の窓から、追い抜いていく他機をただ眺めるしかない、修行僧の切ない1時間が始まった瞬間でした。
執念のテイクオフ!満席のA333、空へ
計の針が1時間を回ろうとした頃、ようやく機体に再び鼓動が戻りました。 「ブレーキの冷却が完了しました」という機内アナウンスに、心の中で「よしっ!」とガッツポーズ。
誘導路をゆっくりと進み、ついに滑走路06Rへ。 先ほどチェジュ航空が軽やかに飛び立っていった場所を通り過ぎ、滑走路の端からフルスロットル!

満席の乗客を乗せたA333は、重厚感たっぷりにふわりと浮き上がりました。
眼下に広がる関空、そして朝の光にキラキラと輝く大阪湾。1時間の足止めを食らった修行僧にとって、この離陸のG(重力)こそが最高のご褒美です。
期待を裏切る「絶品・焼き鳥丼」との出会い
機体が安定し、水平飛行に移ると、修行僧のもう一つのお楽しみ「機内食」の時間です。
正直なところ、1時間遅れでお腹も空いていた私は、「何でもいいから早く食べたい」という心境でした。運ばれてきたのは、香ばしい香りが漂う「焼き鳥丼」。



「失礼ながら、エコノミーの機内食だし……」と一口食べて驚きました。 鶏肉はジューシーで、甘辛いタレの味付けも絶妙。さらに、ピリッと効いた塩コショウがアクセントになっていて、ご飯が止まりません!
「アシアナの機内食、レベル高い……!」(正直キムチとか苦手だったので)
中国地方の山々が雪化粧をしている美しい景色を眺めながら、夢中で焼き鳥丼をかき込みました。地上のブレーキトラブルのストレスなんて、この一杯で完全に吹き飛びましたね。
絶叫の金浦着陸、そして運命の「お☆き☆ど☆め」
幸せな機内食タイムは束の間、機体は韓国・金浦空港への降下を開始します。 しかし、ここでも「修行」の神様は微笑んではくれませんでした。
金浦上空は、機体が木の葉のように揺れるほどの強風とウインドシアの真っ只中。
「頑張れ機長!負けるなA333!」
心の中で叫びながら、左右に振られる翼を信じて待つ数分間。そして――。
ドォォォォン!!
「うわっ!」と思わず声が出るほどの衝撃と共に、A333は力技で金浦の滑走路を掴みました。1時間の遅延を取り戻すかのような、執念の着陸です。
しかし、ようやく着いたと安堵した私を待っていたのは、ボーディングブリッジではなく……。
金浦の洗礼は、愛しの「お☆き☆ど☆め」


タラップを一段ずつ降りるたびに、足元から伝わるエンジンの熱気と、顔を打つ鋭く冷たい風。 でも、見てください。この角度から見上げるA333の巨体!普段はブリッジに隠れて見えない脚の部分や、巨大なエンジンの造形美をこの距離で拝めるのは、沖止めという名の「ご褒美」に他なりません。
「寒いけど、最高だ……!」
バスに揺られながら、最終的には1時間半の遅延も、ウインドシアの恐怖も、この迫力ある機体の姿ですべて帳消しになりました。
修行は、まだ始まったばかり
金浦空港のGATE 2を抜け、40分にも及ぶ入国審査の列を並びきった時、私は心の中で自分に、「さて、ここからが本当の『金浦発券』の始まりだ」とつぶやくのです。
約1時間の足止め、ウインドシアの中の強行着陸、そして沖止め。トラブル続きのフライトだったはずなのに、なぜか足取りは軽く、次なるレグへの活力が湧いてくる。これだからマイル修行はやめられません。
今回の波乱のフライト、皆さんも「金浦発券」を目指す際は、心と時間にたっぷり余裕を持って挑んでくださいね!



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